(短編)昔の幼馴染とチョコレート



 

 

 バレンタインにチョコレートをあげた。人生初の本命チョコレート。

 相手は昔の幼馴染。

 昔の幼馴染、ってなんだか変な言葉だけど、わたしと彼の関係はこれがぴったりだと思った。

 仲良くなったのは親が先。そこからの繋がりで、でも同じマンションに住んでいたのは小学校四年生くらいまで? 父親の転勤で、彼ら一家は引っ越していった。

 携帯電話という文明の利器を持っていた親たちはこまめに連絡を取り合っていたみたいだけど、わたしたちが取れる手段は手紙だけ。最初の内は寂しさから続いていたそれも、互いに他の遊びや近くの友達に心が傾くようになり、次第になくなった。きっともう、会うこともないと。

 それが覆ったのは、またしても彼の父親の転勤だったらしい。

「そういえば、昔同じマンションに住んでた男の子いたでしょう? またこっちに戻ってくるんですって」

「ふーん、そう」

「お父さんがこっちの支社に転勤らしいのよー」

「へー、転勤族は大変だね」

 もう思い出すこともなくなった彼の話を云年振りに聞いても、とくに深くなにかを感じることもない。

 それだというのに、どうしてだろう。

 

 

「これ、あげる」

 差し出したチョコレートは柄にもなく手作り。母親にバレるのが気恥ずかしくて出掛けている隙を狙ったけど、バレているような気もする。

 百円ショップに売っていた箱に、チョコレートを溶かして丸めて、それだけじゃ味気ないかとカラフルチョコを上に乗せただけのお手軽チョコ。それでもどちらかといえば不器用なわたしの精一杯だった。

「…………あの、聞こえてる?」

 チョコを差し出したものの、受け取ってもらえることもなければ、なんの言葉もない。いったいどうしたんだろう。いらないってこと? 

 彼の顔を伺い見れば、きょとんとしていて、なんの感情も読み取れない。

 この近距離で聞こえていないなんてそんなことはないとだろうけど、思わず確認を取ってしまう。

「あっ、うん、ごめん、ちょっとびっくりして」

 まあ、それはそうだと思う。

 だって彼の一家が同じマンションに戻ってきてから、交流があったのはあくまで母親たち。高校、そしてクラスは同じになったもののする話もなく、わりとモテる部類に振り分けられる彼は自然と同じようなメンバーのグループに入ってなおさら交流はない。

 なかなか彼の手に渡らないチョコレート。きっといっぱい貰っただろうから迷惑かな。でもせっかく作ったし……と無理矢理に自分を納得させて、なけなしの勇気を振り絞ってみたけれど、やっぱりやめておけばよかった。

「えーと、やっぱ迷惑? だよね? ごめんね」

「そんなことないっ!」

 チョコレートごと引っ込めようとした手をがっちりと握られて、びくっとしてしまう。彼がそれに反応してごめん、と謝るけれど、手は離れていかなかった。

「違うんだ、ホントに、まさか貰えると思ってなくて……貰って、いいんだよね?」

 彼の方が背は高いのに、わざわざ下から覗き込んでくる。その仕草にきゅんっと胸が鳴った。

「う、ん、こんなので、よければ……」

「こんなのじゃない。これがいい」

「で、でも他にもいっぱい貰ったでしょ? 美味しそうなやつ」

「ううん、貰ってない」

 そんなまさか。他のクラスの子たちが、彼にあげるんだと話をしているのを聞いたもの。

 だけど彼は、信じていないわたしの目をしっかりと見て、もう一度言う。

「これしか貰ってない。……これだけで、いいんだ」

 そうして頬を淡く染めてふんわりと笑った彼は、こちらがうっかり勘違いしてしまいそうになるほど、嬉しそうに見えたから。

「ありがとう」

「こ、ちらこそ……」

 赤くなった顔を見られたくなくて、ついつい俯いてしまった。

 

 

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