(短編)どうしよう可愛すぎる



 

 

「ねえ、二人は夏休みの予定とかあるの?」

 始業前、俺と彼女がそれぞれ別の雑誌を読んでいる時のこと。

 彼女の友人が何気なく放った一言に、そういえばあと一週間で夏休みだったなと思い至る。

「付き合ってるわりに、一切そういう会話してなくない?」

 その言葉にこぼれるのは、苦笑い。だって俺の可愛い可愛い彼女が夢中なのは、俺じゃない。

「夏休みは自由! 自由イコールとつながるのはもちろん!」
「もちろん?」
「アニメ鑑賞会! イベント満喫! 東京遠征!」

 俺にとっては未知の世界でしかない、二次元だ。

 俺だって漫画を読むくらいはするけど、彼女ほど読み込んでいないし、あー面白かったくらいで感想も尽きる。
 ひくりと頬を引き攣らせた友人に向かって、彼女は肩より少し短い黒髪を揺らしながら迫っていく。

「たかが一か月、されど一か月。この一か月でどれだけアニメ充ができるかで二学期からの私のモチベーションが変わるの、わかる!?」
「ごめん、わかんない。あと暑いから離れて」

 肩を押し返されて再び椅子に腰かけた彼女は、どうやらスイッチが入ってしまったようで誰も聞いていないというのに熱弁をふるっている。……いや、聞いてるけど言ってることの半分もわかんない。

「ねえ、ホントにこの子でいいの?」
「うん、この子がいいの」

 まだまだ勉強が足りないなあと思う。確かに未知の世界だけど、彼女が好きなことは俺もできる限り共有したいから。

「あたしにはあんたの趣味、わかんないわ」

 そう言いつつも、この子も彼女のことは嫌いじゃないんだよね。なんていうかこう、憎めないんだ、彼女のこと。

「……あ、そうだ。東京行かない?」
「む、なに突然。藪から棒に」

 ふと思い出して、俺は携帯のカレンダー機能を確認した。そしてそれをそのまま彼女に見せてあげる。

「この印のつけてある日、同人誌販売会やるんでしょ? 東京で」
「! 知ってるの!?」
「うん、調べたからね」
「一緒に行ってくれるの!?」

 身を乗り出す彼女の瞳はキラキラ輝いている。どうやら最初は一人で行く予定を立てていたらしい。
 俺は彼女にうなずいて、「一緒に行こう?」と笑いかけた。

「楽しみ!」

 そう言って今回はなにとなにが欲しいとか、今はこのカップリングが熱いとか、とても楽しそうに語りだす。
 時折を相槌を打ちながら聞いている途中、彼女は不意に言葉を止めて、真っ直ぐに俺を見た。

「夏休み中に会えるの、私は嬉しい!」

 その瞳は、アニメについて語る時のようにキラキラと輝いていて。

 俺は、思わず口元を手で覆って視線をそらしてしまった。

「ん? 気分でも悪くなった?」
「……違うよ、俺も、楽しみだなって思っただけ」

 視線が合わせられないままそう告げれば、彼女はそうかとまた熱弁をふるいだす。
 それを黙って傍聴していた友人が、小さく「天然小悪魔ここに降臨、って感じね」と呟いていたのを俺はしっかりと聞いていた。

 


f:id:slowlife0x7:20180730150200j:image