(短編)震える手は隠したまま、

 

 

ハッピーバレンタイン

 

昔からバレンタインはお菓子企業の戦略だとか。今年は某会社が義理チョコはやめようとか。いろいろ言われてますが、なんでもいいじゃありませんか。背中を押してくれるいいきっかけのひとつ、くらいに考えておけば。

 

恋する女の子、男の子に幸あれ!

 

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(とかなんとかいい感じのことを書いたくせに、内容はほのぼのハッピーではないっていう……笑)

 

 

震える手を隠したまま、

「――久しぶり」

 そう言って私の横に腰掛けた彼は、最後に会った時よりも大人びていた。

「……うん、久しぶり。数ヶ月ぶりかな、こうやって話すの」

 顔なら、学校で見てる。たまにすれ違いもする。だけど、決して話さない。

「そうだな」

 それは噂にまみれた中学時代を送った私たちの暗黙の了解だった。

 デートは私の家の近くの公園で。桜の木の下に設置されたベンチに座って、ただ話をするだけ。遊びに出掛けたことはない。

 友達の話に出てくるデートは、映画を観たり、美味しいものを食べたり、ゲームセンターへ行ったり。楽しそうでいいなとは思うけど、だからって彼と話す時間がつまらないと感じたことはなかった。
 でも、ちょっとしたすれ違いで恋人から友達に戻った私たちは、今でも人目があるところで話しかけたり、話しかけられたりすることはない。

「ね、マラソン大会どうだった?」
「ふつう」

「私は去年よりは楽に感じたよー」
「……たしかに」

 ワンテンポ遅れて返ってくる短い返答。慣れてるから、気にすることはないけれど、彼がなにを思って今日会うことを了承してくれたかが、気になって仕方ない。
 少なくとも私の方は嫌いで別れたわけじゃなくて、むしろ今でも好きで。まだどうしようもなく好きで。

 今日はバレンタインで、別れて半年くらい。未練がましくチョコレートは用意したけど、受け取ってもらえるなんて思ってなかった。そもそも学校じゃ話しかけられないから、渡すことすらできないし。

 だから当たって砕けろ精神で、学校終わりに会えないかと連絡して、いいよと返ってきたことに驚いている。

「マラソン大会終わったかと思えば、次はテストだよ。学生しんどーい」

「勉強してんの?」

「ぼちぼちね」

 何気ない会話が続く。でも本当は焦ってる。

 早く、早くしないと渡せないままになっちゃう。せっかく来てもらったのに。せっかく用意したんだから。
 彼から隠して見えない方、バレンタインの贈り物を持った手が、もうずっと震えてる。