(短編)小さな一歩



 

 

「あれ、ネイルまた新しくなった?」

 友達のカップを持つ手の指先が、前見た時とは違うネイルになっていることにはすぐ気付いた。

「そーなの! いつもとは違うサロンに行ってみたのー!」

 かわいいでしょ?と、ご丁寧に目の前に両手指を広げてくれる。

 大人っぽい彼女らしいデザインだ。メインカラーにネイビーが使われていて、人指し指の爪に乗った他よりも少し大きめのラインストーンがいいアクセントになっている。かわいい。素敵。

「いいなぁ」

「あんただってやればいいでしょ。今度一緒に行く?」

「んー……、でも私の爪、男爪だし、」

 そっと、自分の手を机の下に隠す。爪は横に広く縦に短い、典型的な男爪だ。ちょっとしたコンプレックス、だったりする。

 だから、彼女みたいな女爪がうらやましいと思うし、ほっそりとした指先にお洒落なネイルで飾っているのを見るとついついじっと見てしまう。

「別に男爪だからネイルできないってわけじゃないんだから」

「まあ、うん、」

 そう、そうなんだけど。でも私が憧れているのは、ただのネイルじゃなくて。

「いいなぁ、綺麗な爪……」

 気を付けては、いる。爪の整え方とか、力を入れて使わないようにとか。いろいろ。

 それでもなかなか、道のりは長い。

 しょんぼりと眉尻を下げたのを見た彼女は、やれやれというように息を吐いた。

「ま、あんたが納得したら一緒に行きましょ。行きつけのサロン、教えてあげるから」

「……はーい」

「あ、ここ出たらちょっと化粧品見に行っていい? アイライナーが切れそうで」

「いいよいいよ、行こ」

 それからしばらく雑談に花を咲かせた後、店を出て近くの薬局へ寄った。邪魔にならないよう、ふらりと店内を見ていた私はある物を見つけた。

 目を引かれたそれを手に取って、こっそりレジへ持って行く。店員から受け取った袋を、こっそりと鞄にしまった。

 

 入浴後、鞄に潜ませていた薬局で買ったある物を取り出す。

「ホントにツヤツヤするかな……」

 期待半分で買ったのは、透明な爪用のツヤ出し。春限定のデザインがかわいい。それを録画したお気に入りのドラマDVDを見ながら、そっと爪の上で滑らせた。

「…………おぉー、なんか、ツヤっとした」

 ドラマがエンドロールを流したあたりで乾いた爪が、光を反射してツヤリとしているのを見て、表しきれない満足感を得た。

 彼女のように色ネイルで模様を描いたり、ラメやストーンを散りばめさせたり。そんな完璧なお洒落ネイルはまだまだしようという気持ちにはなれないけれど。

「これはこれで、よき!」

 

 

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