(短編)憂鬱な朝に満たしたい睡眠欲



 

 

 毎朝決まった時間に鳴るタイマーの音を聞くと、憂鬱になる。だから毎日、起きた瞬間から憂鬱だ。憂鬱だと思うから憂鬱なんだよなんていう理屈も、寝起きにはどうでもいい。

 仕事は嫌いじゃない。でも、朝起こされることが嫌い。服のコーディネートを考えて、化粧をするのが嫌い。席も通路も埋まった電車に乗るのが、嫌い。

 今日も乗降口に出来た短い列に並び、待っていた電車は座れない。 どの人なら途中の駅で降りるだろうか。予想をつけて、立ち位置の確保。人と人との狭い間を取り抜ける。あとはボーッと立って待つだけ。 

 ふっと息を吐く。

「おはよう」

「あっ、おはようございます。電車で会うなんて珍しいですね」

 最寄りから二つ先の停車駅。乗ってきた同じ部署の先輩に声をかけられた。いつも就業時間ギリギリに出勤してくる先輩と会うなんて、珍しい。

 たまたま空いた隣に立った先輩は、よいしょっと肩にかけたバックをかけ直して笑う。

「いつもより早く目が覚めちゃって」

「あー、そういう日ありますよね」

 なにもないのに夜中に目が覚めてしまうことがある。起床時間より一時間、三十分早く目が覚めてしまうことも。そういう時は損をした気持ちになる。できるなら、横になった瞬間から起きなければならないその瞬間まで、眠っていたい。

「私だったらたとえ五分前でも二度寝しちゃいますよ」

「たった五分なのに?」

 先輩はくすくす笑う。だって時間ギリギリまで寝ていたいんだもの。

「その五分が大切だったりするんですよー」

「お昼休みもよく寝てるもんね」

 お昼休憩だって大事。午後の一発目はぼんやりしてしまうけれど。

 ガタンっと電車が揺れて、隣の人にぶつかったらしい先輩が小さく「ごめんなさい」と謝っている。

 足も痛いし、立ち位置も安定しないし、座りたい。

「この路線、毎朝人多いよね」

「ですねー。始発の駅からじゃないとなかなか座れなさそうですよね」

 私の最寄りは始発から四駅程度。それでも駅に着く頃には席がすべて埋まっていて、立っている人もちらほら。それくらい、この路線は通勤者が多く使うのだ。

 かといって、座りたいだけの為に始発駅の方へ引っ越すには代償がでかい。 お金もないし、時間もないし。

「でもホントは、座って寝てたいのにって感じですよー」 

「わかるわかる」

 そこそこな時間、人が多くて窮屈な電車。なんだか空気も重い。

 せめて座って寝ていられれば、睡眠欲も満たされて、やり過ごせるのにと毎日思わずにはいられない。

 

 

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